給与の話6 -青色専従者と使用人兼務役員-
届け出の最終回は、個人事業の青色専従者についてです。税務的には必須となる届ですが労務的には別扱いされるので回を分けました。また、法人事業の使用人兼務役員についても触れておこうと思います。
既にご存知のことでしょうが、所得税の申告の種類は青色と白色の二種です。青色専従者とは、青色申告を選択し承認を受けた個人事業主の事業専従者のことで、正確には青色事業専従者といいます。
「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの」と所得税法に規定されています。
青色事業者が、生計を一にする家族に給与を支払うことは届の有無にかかわらず自由ですが、事業(不動産)所得を計算するうえで必要経費に認められるためには、青色専従者として届け出ている必要があります。
そのためには、事業開始から2カ月以内に、通常は『所得税の青色申告承認申請書』といっしょに、『青色事業専従者給与に関する届出書』に氏名・続柄・年齢・仕事内容・給与の額等を記入して届け出ます。
なお、白色申告の場合は、事業専従者控除と呼ばれ、金額制限のない青色専従者とは違い控除金額が決められています。もちろん、申告書には記入が必要ですが、事前の届け出は不要です。
前回までご説明してきたように、専従者は事業主の家族従業員なので、労災・雇用保険・健康保険・厚生年金が適用除外です。
また冒頭で申し上げたように、青色専従者の届は、労務関係の届け出というよりは、税務の開業の届け出のくくりとなることが多い書類です。そもそも、青色申告にするかどうかという問題もあります。青色申告(白色申告)の仕組みや対象については、細かな説明が必要なので、詳しくは当法人までお尋ねください。
この専従者でまれに起こることは、配偶者控除等との重複適用の問題です。
2回目で『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』をよく読んで提出してもらってくださいと書きましたが、内容を読まず、名前だけ書いてハンコをポンという方が多いのが実情です。小さな字ですが、『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』の裏面には、誰がどの条件下で扶養家族になれるか、また、どういう条件下で控除が上積みになるかが記載されています。
その右半分、扶養親族等の範囲に「青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色専従者を除きます」とあるのですが、見逃されることが多いようです。原則、青色専従者給与を受けると、給与の支払者はもちろんのこと、他の誰かの配偶者控除や扶養控除の対象にはなれません。
『青色事業専従者給与に関する届出書』を提出されるときは、給与の金額がわずかでも、所得税の扶養家族にはなれないことを念頭においていただき、他のご家族にも周知なさってください。
次は使用人兼務役員についてです。
使用人兼務役員とは、税務と労務では考えが少し違いますが、基本は役員として登記されていても実際は使用人(労働者)として働いている従業員のことです。
話がそれますが、先に法人の登記について触れておきます。
子供が生まれれば出生届を出し戸籍をつくるように、法人も設立したら登記をします。
最もポピュラーな法人の形態である株式会社は、会社法や商業登記法によって名称や所在地のほかに、役員を選任・登記しなければいけませんが、この場合の役員とは、取締役・監査役・会計参与の三つです。なお、私どものような税理士法人や社団法人の役員名称はこの限りではありません。
履歴事項証明(登記簿謄本)をご覧になったことはおありですか?
代表取締役は代表権を持つ取締役なのでその名称で登記されますが、その他は取締役・監査役の名が並ぶのが一般的となります。
代表取締役は一人とは限らず、複数代表取締役を選ぶことも可能です。逆に、条件次第では取締役が一人だけという場合もあります。
よく耳にするCEOはアメリカの制度であり、日本の法人の場合は、社内名称となります。CEOとして登記することは出来ず、同じように、社長・副社長・会長・専務・常務・相談役といった役職名も会社組織上よく使われていますが、登記はできません。
執行役員という役職も近年よく採用されています。この役職も役員とつくので登記上の役員と勘違いされがちですが、本来は取締役としては登記されていない従業員の社内名称です。もっとも、そもそもの趣旨に反して、取締役に登記されている場合もあるようですが。
本題に戻って、使用人兼務役員について。
税務の方は、法人税の関連になります。ここにはそぐわないので簡単な説明にとどめますが、役員か否かによって給与の扱い等がかわり、法人税の計算にも影響が出る場合があります。賞与が典型的な例です。
税法上の使用人兼務役員は、地位や持ち株等で条件が列挙されています。登記上の役員ではない「みなし役員(例えば、取締役ではないが「専務」と呼ばれている人)」もからんできますので、詳しくは当法人へお尋ねください。
使用人兼務役員の労務については、社会保険の対象は、荒っぽく言えば常勤であるかどうかが肝心なので、役員か労働者かはあまり関係ありません。
労災については「役員について 労働者の性質がない部分は範囲外」と3回目で説明しましたので、労働者としての部分については適用の範囲です。
同様に3回目で、「取締役は、雇用保険について原則範囲外」と説明しましたが、この原則に対する例外が使用人兼務役員です。
主に工場長や支店長の役職についている場合ですが、労働者性を認められた場合は、給与のうち従業員としての部分(役員報酬以外)について雇用保険の対象となります。退職・退任時には失業給付の対象になり得ます。
ハローワークから労働者性を認められる条件は、書類の提出はもちろんとして、勤怠管理を受けていること、役員としての給与と従業員としての給与の割合で従業員としての分が大きいこと等があげられますが、組織図や就業規則等々を総合的に判断して行われるので、窓口によって扱いが違った・・・と噂されがちな案件です。ご注意ください。
長々かかりましたが、どうにか届出回を終了しました。次回からは給与計算に移ります。
最後に、給与の話には全く関係がありませんが、消費税のお話を少々。
今秋から消費税率が改定されます。2%上乗せになると言えばそれまでですが、9月までの8%と10月からの8%では内容が違います。領収証やレジ対応以外、経理関係でも対応が必要となります。とはいえ、各事業所の状況によって何をすべきかは様々であり、顧問税理士から求められることもケースバイケースとなります。恐らく各担当からお話があると思いますが、一般論ではなく、個別具体的な方策をお聞きになってください。